名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)276号 判決
原審公判記録によれば第一回乃至第五回の公判期日の審理に出席した検察官は副検事坂本敏英であつて検察官事務取扱検察事務官川崎三郎の出席したのは第六回の判決言渡の公判期日のみであることは所論の通りである。
しかし、刑事訴訟法第二百八十二条第二項には公判廷は裁判官及び裁判所書記が列席し且つ検察官が出席してこれを開くとあり、同第三百四十二条には判決は公判廷において宣告によりこれを告知するとあるから法は公判期日の開廷には其の事件審理の期日たると、判決言渡の期日たるとを問わず検察官の出席を要するものとすることに於て彼此区別をしないことが明かであることと刑事訴訟規則第五十六条第二項が判決書には公判期日に出席した検察官の官氏名を記載しなければならないとのみ規定し如何なる期日に出席した検察官とも限定しない点から考えれば判決書に其の者の官氏名を記載しなければならない検察官は判決宣告の公判期日にのみ出席した者でも差支えないものと論結することが出来るから原判決が原審第一回乃至第六回の公判審理に出席した副検事の官氏名を措いて第六回の判決宣告の公判期日にのみ出席した前記検察官事務取扱の官氏名を記載したことは少しも違法ではない。尤も原判決主文の前文に「当裁判所は検察官事務取扱検察事務官川崎三郎出席の上併合審理を遂げ左の通り判決する」とあることは所論の通りであつて、右語句を極めて形式的及び機械的に解すれば或は所論のように公判審理に立会わない者を立会つたもののように記載した違法があることとなるけれども、このような形式的論議は何ら原判決を破棄するに足る実質的違法を惹起するものではないから論旨は採用しない。
(中略)
同弁護人の論旨第五点について。
原審第五回公判調書によると所論のように検察官は被告人ら全員の司法警察員並に検察官に対する供述調書を証拠に提出し弁護人らは右は被告人らの任意に供述したものでなく強制に基く自白であるとの理由で証拠調に異議を唱えたけれども原審は右任意性に関する検察官の特段の立証を待たず直ちに右弁護人の主張を排斥して右各供述調書の証拠調を許した事実が認められるが、供述調書の任意性が争われた場合常に其の点に関する検察官の立証を待たなければこれが証拠調を為すことが出来ないものという訳のものではなく裁判所において諸般の審理の経過並に主張及び立証の状況又は段階に照らし調書の任意性につき疑いのない心証を有するときは同調書の任意性につき改めて特別の調査を行うまでもなく証拠としてその取調を命ずることをうるものと言わなければならない。本件において所論供述調書が原審に提出せられたのは事件審理の最終段階に於てであり、原審裁判官が諸般の審理の経過に照らし且つ検察官並に被告人らの主張及び立証の終局点に於て事件に対して形成した心証に基き公判廷における被告人らの供述とこれと異る右供述調書における供述との真偽を批判し後者の供述の任意性を推定した上これが証拠調を許容したものであることは原審公判記録を通読して了解しうるところである。よつて弁護人の本論旨も採用し得ない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)